レッスン3

コンプライアンスや監査分野におけるZK技術の活用

機関投資家やステーブルコイン発行者、伝統的な金融機関がオンチェーンビジネスへの取り組みを強化する中で、「コンプライアンス」が最大の参入障壁となっています。このレッスンでは、ゼロ知識証明を活用することで、企業やプロジェクトが機密情報を開示せずにKYC、AML、監査要件を満たす方法を解説し、「プライバシー x コンプライアンス」の実現に向けた実用的なソリューションを提案します。

なぜ規制監査にZKが必要なのか?

従来のオンチェーン監査が直面する根本的な課題は以下の通りです。

• ブロックチェーンは公開・透明性が高く、誰でもアクセス可能
• 金融コンプライアンスには詳細な検証が求められるが、機関は内部データの開示を避けたがる

このため、規制要件とプライバシー保護は本質的に対立しがちです。

ZKは新たなアプローチを提供します。「ルールに準拠している」ことのみを証明し、裏にある機密情報は開示しません。

例:
• 「このウォレットはKYCを完了している」と証明するが、実際の本人情報は公開しない
• 「資金が正当な出所である」と証明するが、すべての取引記録は開示しない
• 「資産準備高が流通トークンより多い」と証明するが、資産リストは非公開(Proof of Reserves)

ZKは、規制とプライバシーの両立を現実的に可能にします。

KYC / AMLにおけるZKの活用方法

現在主流のコンプライアンスソリューションは、過剰なデータ公開という問題を抱えています。
• KYCでは過度な個人情報提出が必要
• 銀行や取引所は機密情報を保管しなければならない
• ユーザーも機関も大きなプライバシーリスクを負う

ZKの解決策「ZK-KYC」は、「認証が通過した」ことだけを証明し、個人情報は開示しません。

プロセス

  1. ユーザーが信頼できる認証機関(金融機関や認可事業者など)で一度だけ本人確認を完了
  2. 認証機関が「ユーザーはKYCを通過した」という証明を生成
  3. ユーザーはオンチェーンやアプリ内でZK証明のみ提出し、個人情報は一切公開されない
  4. スマートコントラクトは「この人物が信頼できる」ことだけを検証し、実際の本人情報は取得しない

コンプライアンス要件を満たしつつ、プライバシーは保持されます。

ユースケース
• 規制対象の取引所(米国やEU MiCA規制下の事業者)
• DeFiの機関向け流動性プール(Aave、Curveのクレジットプール)
• ステーブルコイン決済ネットワーク(USDC、USDTの企業アカウント)
• 国際資本移動の検証

ZKによる「制御可能なプライバシー」:選択的開示

将来の規制は「完全な透明性」でも「絶対的なプライバシー」でもなく、ユーザー自身がどのデータを誰と共有するかを制御できることです。

ZKが果たす役割:

1. 選択的開示

• 全取引記録を開示する必要はない
• 必要な場合のみ、規制当局に特定情報を開示
• 時間・金額・目的など条件に応じて開示内容を調整可能

2. レギュレーターキー

機関は、特定条件下でのみ一部のプライベート情報を復号できるキーを保持できます。

これはバックドアではなく、
• ユーザー主導の選択
• 機関アカウント向け
• ZK証明と併用可能

3. コンプライアンス証明

例:
• AML証明(マネーロンダリング対策)
• アドレススクリーニング証明
• 資金出所証明

プロジェクトチームや金融機関は、全データセットを開示せずに規制要件を満たせます。

監査(Proof of Reserves・Proof of Liabilities)におけるZKの活用方法

従来、取引所やステーブルコインの監査には次の課題がありました。
• 保有資産の透明性不足
• 監査プロセスが非公開
• ユーザーが実際のリスクを把握できない

ZKは、資産詳細を開示せずに財務健全性を証明する手段を提供します。

主なモデル

  • Proof of Reserves(PoR)
    準備資産がユーザー負債を上回っていることを証明
    個別の資産・アドレス・金額は非公開

  • Proof of Liabilities(PoL)
    暗号コミットメントにより、各ユーザー資産が完全に計上されていることを検証(残高は非公開)

  • 双方向証明:PoR+PoLの組み合わせ
    今後、取引所やステーブルコイン発行体は以下のモデルを採用する可能性があります。
    • 規制コンプライアンス審査に対応
    • 内部資産構造を開示しない
    これは金融インフラにおけるZKの最も明確で決定的な方向性です。

Circle / USDCのオフチェーンコンプライアンス+オンチェーンプライバシーの取り組み


出典:https://www.circle.com/

USDCの発行者であるCircleは、グローバルなコンプライアンス要件を満たしつつ、企業顧客のプライバシーにも対応する必要があります。Circleは複数のコンプライアンスモジュールと連携し、ZK-KYCプロトタイプのテストを進めています。「コンプライアンスはオフチェーンで完了し、証明はオンチェーンで提供」というモデルの構築を目指しています。

主なアプローチ

1. オフチェーンKYC / KYB完了

ユーザーや企業はCircleまたは提携機関に本人・企業情報を提出し、これらの詳細はオンチェーンに記録されません。

2. ZKコンプライアンス証明の生成

承認後、「このアドレスはKYC/KYBを通過した」というZK証明が作成され、本人情報は開示されません。

オンチェーンコントラクトはコンプライアンス状況のみを検証し、個別の本人情報は不要です。

3. オンチェーンプライベート決済

企業がUSDCで支払いを行う際:
• 規制遵守を証明可能
• 取引額や財務情報は開示しない
• 必要に応じて規制当局に情報を選択的に開示できる

ユースケース
• 企業レベルのUSDC決済
• ステーブルコイン決済・国際取引
• 銀行・決済機関のオンチェーンアカウント
• 規制基準が高い地域(米国、EU MiCA)

CircleのZK-KYC実験は、ステーブルコインが「プライバシー対応コンプライアンス」を実現し、企業データを保護しつつ規制要求を満たす未来の方向性を示しています。

Zcash:プライベートトランザクションの先駆者


出典:https://z.cash/

Zcashは、メインネットでzk-SNARKsを大規模導入した最初期の暗号資産の一つです。ユーザーは「公開」トランザクションと「プライベート」トランザクションを自由に切り替え可能です。2025年にプライバシーへの関心が再燃し、市場が「選択的開示」のコンプライアンス可能性を再評価したことで、ZECは急速な成長を遂げました。

主なアプローチ

1. 選択的プライバシー(選択的開示)

Zcashのコア機構では、
• 送信元アドレス
• 受信先アドレス
• 取引額
を隠すことができます。

必要に応じて、ユーザーが機関や監査人に取引詳細を選択的に開示できます。

2. zk-SNARKsによるプライベートトランザクション

プライベートトランザクションはゼロ知識証明により、
• データの機密性
• 取引の検証性
• ネットワークの安全性・一貫性
を確保します。

これは、ZKによるプライベートトランザクションシステムの最初の実運用事例です。

3. コンプライアンスへの取り組み:監査可能なプライバシー

Zcash Foundationは規制アドバイザーと連携し、
• 企業がZEC「プライベートアカウント」を活用する方法
• コンプライアンス下で選択的開示機能を維持する方法
• プライベートトランザクションを規制監督下で可視化する方法
を模索しています。

この進化により、Zcashは「完全匿名コイン」から「コンプライアンス対応プライバシー」へと転換しています。

4. 市場的意義

2025年、プライバシーへの関心が高まる中、ZECは数倍に急騰し、市場に「プライバシーは敵ではなく、企業決済・国際決済・ユーザー保護に不可欠な機能」であることを改めて示しました。

Zcashの選択的プライバシーモデルは、ZKによるプライバシーがコンプライアンス対応可能であり、規制要件を満たしつつ機密性も確保できることを証明しています。

免責事項
* 暗号資産投資には重大なリスクが伴います。注意して進めてください。このコースは投資アドバイスを目的としたものではありません。
※ このコースはGate Learnに参加しているメンバーが作成したものです。作成者が共有した意見はGate Learnを代表するものではありません。